平成10年11月18日

<1998年11月18日午前0時前後東の空に33年ぶりに獅子座流星群出現>

最短ネットワーク問題に挑む

<水の流れ>授業編

さあー。今日は最短シュタイナー問題を一緒に考えよう。


問題1

 三角形の頂点A,B,Cの位置に3校があり、この3校を連結するネットワーク(どの2校もネットワークを通して、行き来できるようにする)を結ぶ計画があります。
もっとも短い結び方で、何kmが必要でしょうか?
また、その、作図も書いてください。

ただし、BC=akm,CA=bkm,AB=ckm です。

さて、いきなり三角形のときは、大変だから、正方形でみんな考えてください。
*既に、生徒に配布して置いた1辺が10cm正方形の厚紙で、いろいろな設計図を書き始める。)
書いたら、定規で長さを測ってください。グループで出し合ってください。
勿論、1辺をakmのときは、√(ルート)が必要になるからね。

問題2

 正方形の頂点A,B,C,Dの位置に4校があり、この4校を連結するネットワーク(どの2校もネットワークを通して、行き来できるようにする)を結ぶ計画があります。
もっとも短い結び方で、何kmが必要でしょうか?
また、その、作図も書いてください。
ただし、1辺の距離をakmとする。

ここに、授業中に生徒が考えた設計図があります。

設計図の中で、一番短いのは対角線の×印のネットですね。
しかし、一番右は図だけで、長さは出ていませんね。

先生、定規で測ってみたら、どうですか。
そうだね、では測ってください。

対角線は1辺が10cmですから、だいたい、

×10=28.3センチです。

よく、そこまで、測れたね。次ぎに、一番右隣りはどうですか?
 先生!どうも28.3センチより短いみたいです。
そうですね。では、途中の交点はどこに取るとよいですか?

いろいろな、発想がでてきましたが、なぜ?と問われると答えられません。

 先生!ギブアップです。教えてください。ここまで、考えたから。
それでは、みんなと一緒に考えてみましょう。
実は、三角形の場合を知って置く必要がありますので、順にいきよ。

 まず、次の定理を証明します。

定理1 正三角形の内部の点から3辺までの距離の和は一定である。

<証明>

正三角形の1辺の長さをaとして、三角形の面積を考える。

△PBC+△PCA+△PAB=△ABC

 (1/2)ax+(1/2)ay+(1/2)az=(1/2)ah
∴x+y+z=h
  (ただし、hは△ABCの高さとする)

さて、この応用を用いて最短シャタイナー問題が解けます。

問題1 3角形の各頂点から距離の和が最小になる点を見つけよ。

(これはフランスの大数学者フェルマーがイタリーの物理学者トリチェリに出題)

<証明>2つの3角形に分けて、結論が分かっていないので、この点が最小なることを証明します。
@3角形の角がすべて120゜以下の場合 
A 3角形の1角が120゜より大きい場合

@の場合 

与えられた3角形をABCとし、任意の点をPとする。
AP,BP,CPの交角がすべて120゜になるとき最小な点Qとなることを言う。

A,B,Cを通って,AQ,BQ,CQに垂直な直線を引いて3角形A’B’C’を作る。
この3角形は、∠AQB=∠BQC=∠CQA=120゜ より正三角形である。

任意の点Pから3辺B’C’,C’A’,A’B’に下した垂線の足をL、M、Nとすると、

PA+PB+PC≧PL+PM+PN=QA+QB+QC
(3角形の辺の長さの不等式と定理1から)

Aの場合は考慮中です。  <一応証明終わり>

次の外接円を加えます。

定理2

 正3角形ABCの平面上の任意の点をPとして、次の不等式が成り立つ。
BP+CP≧AP,CP+AP≧BP ,AP+BP≧CP

<証明>(*トレミーの定理の一般化したものを利用します)

任意の4点A,B,C,Pについて(4角形はねじれた場合も良い)、
四辺形ABCDについて、一般のトレミーの定理は

AC・BP+AB・CP≧BC・AP
(この証明はやらねば、これは複素数を用いて後でします。)

正3角形より、AC=AB=BC だから
 BP+CP≧AP
他の2つの場合も同様です。  <証明終>

注:点Pが△ABCの外接円上にないとき

注意:この不等式の関係は円に外接する4角形のトレミーの定理から、等号が成り立つのは点Pが△ABCの外接円上にあるときに限る。
例えば、点Pが弧BC上にあるとき、
 等式 BP+CP=AP が成り立ち、他の2つは不等式である。

これは、点Pが三角形ABCの外接円上にあるときに成り立つことをしめしています。

定理3 四辺形ABCDについて、一般のトレミーの定理は

  AB・CD+AD・BC≧AC・BD

<証明> 複素数平面上で4点A、B、C、Dの座標をそれぞれα、β、γ、δ とする。

ここで、Z=(α−β)(γ−δ), W=(γ−β)(α−δ)とおくと、
Z−W=(α−β)(γ−δ)−(γ−β)(α−δ)
  =(α−γ)(β−δ)となり、

|Z|+|W|≧|Z−W| <例の三角不等式>

注:一般に、複素数X、Yについて、
   |X||Y|=|XY|は成立

ただし、等号は、4点A、B、C、D が同一円周上にあるとき成り立つ。

さあー、もう一息だから、みんな頑張ろうね。
最後の定理でーす。

定理4  △ABCの辺BC,CA,ABを1辺として正3角形CBD,ACE,BAFを△ABCの外側に作ると、次のことが成り立つ。

(1)DA=EB=FC
(2)DA,EB,FCの交角はすべて120゜である。

<証明> この証明は 複素平面上で示します。
3点A、B、Cの座標をそれぞれα、O、γ とする。
(ただし,Oは原点とする。)

(*回転に威力を発揮するのが複素数です。)

さらに、3点D、E,Fの座標をそれぞれd,e,fとします。

ここで、1の立方根を1,ω、ω2で表し、
ω=(−1+i)/2=cos120゜+isin120゜ とする。

注:ωは1の立方根より、
ω3−1=(ω−1)(ω2+ω+1)=0

∴ω2+ω+1=0

また、ω2=−ω−1,ω2+1=−ω

点Fの座標は 線分BAを原点の周りに120゜回転させた点をGとし、ベクトルだけ平行移動します。
G(ωα)、F(ωα+α)

∴ f=ωα+α=(ω+1)α=−αω2

点Dの座標は 線分BCを原点の周りに240゜回転させた点をHとし、ベクトルだけ平行移動します。

H(γω2),D(γω2+γ)


d=γω2+γ
=(ω2+1)γ
=−ωγ

点Eの座標は,線分ACを点Aの周りに120゜回転させた点をKとし、ベクトルだけ平行移動します。

K{ω(γ−α )+α },E{ω(γ−α )+α+(γ−α )}


e=ω(γ−α )+γ
 =(ω+1)γ−ωα
 =−γω2−ωα

これから、
=α−d=α+ωγ


=o−e
=γω2+ωα
=ω(α+ωγ)
=ω

同様にして、

以上から、


一度に証明できます。<*複素数の威力です。>

最後に、求める最短経路の長さは
 |DA|=|α+ωγ| ・・・(答)

A 3角形の1角が120゜より大きい場合

∠A>120゜ のとき、AB+AC が 最小になり、点Pは点A そのものです。

先生、もう疲れたー。
じゃー、まとめるよ。

@3角形の角がすべて120゜以下の場合
 求める設計図は交角がすべて120゜となる点を探します。
その点は1つの辺を正三角形の1辺として、反対側に作り、もう1つの他の点と結びます。

 さらに、この正三角形の外接円との交点をみつけてください。
これがもとめる中継点です。
最短距離はDA=EB=FCです。

A 3角形の1角が120゜より大きい場合
∠A>120゜ のとき、AB+AC が 最小にになり、点Pは点Aそのものです。

さて、元に、もどります。正方形ですが、

もう、分かったね。
[4(1/2÷cos30°)+{1−2(1/2×tan30°)}]a
=(1+) ・・・(答え)

注:a=100のとき、最短距離は273 になるよ。
これをもとに、正5角形、正6角形も考えてください。
よーし、これで、本日の<水の流れ>の授業を終わります。

<参考 文献> 数学ひとり旅 石谷 茂 現代数学社



       岐阜県立海津北高等学校 数学科教諭 水野 隆生
       自宅:mizuryu@aqua.ocn.ne.jp


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