平成10年6月15日

日常生活の中でのモンモール問題

<水の流れ> の授業の中から



「先生!席替えしようよ。」と、生徒から声がかかりました。
「じゃー、いいよ。いつもの通り、くじ引きでやろう。」と、私は言って、後はHR委員長
にくじのことは任せました。生徒にとって、隣が誰で、教室のどの位置になるかは大変、関
心があります。
 明日、見事に席替えは行われていました。ところが、「先生!もう一度やり直そう。」と、言う生徒が出てきました。理由を聞くと、「私は、前回と一緒だから、おもしろくない。」
と、言います。生徒が31人もいて、また、同じ席ではちょっと可哀想かなーと思い、「それ
じゃー、ほかに前回と同じ席の人はいませんか。」と、聞くと、もう一人いました。そこで、
少しみんなで、考えてみることにしました。
「n人を一列に並ぶ方法は、全部でn!(nの階乗)通りある」ことは、みんな知っています。
じゃー、1人、2人、3人、4人、5人と実際に並んでみることにしょう。

並んだ順に一番からの席にするからね。(生徒の心理的なことは抜きにします)
n=3のとき、生徒に番号を1,2,3とつけ、前と同じなら、○を番号につけることにします。



 1席                            

 2席                            

 3席                            





 


  3人が同じ             


  4人が同じ             


  2人が同じ             


  1人が同じ             


  全員違う              








  4人が同じ             


  3人が同じ             


  2人が同じ             


  1人が同じ             


  全員違う              












n=4のときも、同じように考えてみましょう。

1席
2席
3席
4席
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



★ここで、確率で考えるよ。n=3のとき、2÷6=0.333・・・

n=4のとき、9÷24=0.375・・・ だから、少なくとも1人以上同じ席になるのは、
n=3のとき、約67%
n=4のとき、約62.5% で、案外多いのです。分かった?

実は、1708年にモンモールMontmort(1678〜1719)が「トランプのA,2,3,・・・・,J,
Q,Kの13枚をよく切って一列に並べるとき、並んだ順番が1枚もそのトランプの番号と一致し
ない確率を求めよう。」と、言ったのが始まりです。
その後、モンモールとは別にベルヌイ、オイラーが一般の場合の「封筒とりちがえ問題」を研究
しました。
「ある人がn通の手紙を書き、宛名を記した封筒をn枚用意した。どの手紙も正当な宛名の封筒
に入れない仕方を何通りあるか。」
先生!もう、古い歴史的な話は分かったので、席替えの話にもどろうよ。 今、たったの3、4人のことは具体的に一列に並べたので良いですが。このクラスは31人いる
んです。実際に、一列に並べるんですか。まあー、そう、あわてずに、みんなゆっくり考えよう。
n=5のときは、どうなるかね。n=3,4のことを考えてくれないかね。 例えば、5人とも同
じ席の場合は、当然1通りだよね、
4人が同じ場合はあるかね。・・・?
3人が同じ場合はどうかね。
生徒「分かった。5人中どの3人が同じで、残りの2人が互いに違う場合でしょう。」
「そうだよ。じゃー、計算してください。」
次ぎに、2人の場合はどうなるんですか。・・・、しばらく、考える。
ある生徒、「5人中どの2人が同じ席で、残りの3人が全員前と違う席に座るんでしょう。」と、
発言する。「いいとこ、考えているね。問題は残り3人が全員違うという数え方ですよ。」・・・
「先生!分かった。これは、3人で座るときを考えて、すべて、違う座り方は、えーっと。」前の
箇所のノートを見ながら、「あぁー、書いてあった。2通りです。」「よく、気がついたね。その
通りです。」「じゃー、1人場合は」
「先生!もう言わなくていいよ。じゃー、答えるよ。5人の中でどの1人が同じ席で、残りの4人
が全員違う場合はだから、前のノートを見て、組み合わせのC(5,1)が5通りで、4人が違う
場合だからその9通りを掛けて、答え45通りです。」
「よく、考えて、言えたね。全くその通りの考え方でいいよ。」「じゃー、最後の一人とも同じ席
でない場合はどうなる。」・・・、しばらく、全員考える。2,3分後、
「先生!よく分からないですが、5人を一列に並べるのは5!=120通りだから、ここから、引
けばいいんじゃーないんですか。」私曰く、「よぉーし、その方法でやろう。」
「先生、いろいろ数字が出てくるので、ごちゃごちゃになる。」
「よぉーし、まとめの意味で、表を作ろう。n人の中で、r人が同じ席である数だから、
これをM(n、r)と書くことにしよう。じゃー、下の表を埋めてください。」


r=0 r=1 r=2 r=3 r=4 r=5 r=6 r=7
n=1
n=2
n=3
n=4           24
n=5             120
n=6               720
n=7                 5040





「よくできたね。じゃー、この数字の表に名前をつけよう。」
生徒曰く。「先生!2年生のときに、このような表を書いたとき、パスカルの三角形と言ったこと、思い出したから、それにちなんで、モンモールの三角形と呼ぼうよ。みんないいね。決定。」
「先生!r=0のとき、いつも全体の計から、引くのはめんどで〜す。」
それでは、もう一度よく考えよう。M(n,0)=f(n)とおくことにするよ。
よく聞かないと、ここは難しいぞ。一般のnで話すぞ。
【1】k番目の席に1番の人が座り、1番目の席にk番の人が座った場合。
1とk番の除いた2,3,・・・,k−1,k+1,・・・,nの(n−2)人が
すべて違う席に座るのだから、その座り方はf(n−2)通りある。
【2】k番目の席に1番以外の人が座ったとき、h番目に1番の人が座ります。h≠k
であるから 、1番の人を除いた残りの2,3,・・・,nの(n−1)人がすべて、
異なる席に座る方法はf(n−1)通りある。
いずれの場合もkは、2≦k≦nの(n−1)通りあるから、求めたい全てが異なる座り方の総数f(n)は f(n)=(n−1){ f(n−2)+f(n−1)}という漸化式で表せる。 ただし、f(1)=0,f(2)=1 ,n≧3とする。
ここで、n=3,4,5をこの結果から、 f(n)を求めることにしよう。
*このように、いずれも違った所に一列に並べることを完全順列または攪乱順列と言います。
話を元にもどそう。 全員異なる座り方の確率はf(n)÷n!より、計算しよう。
n=5のとき、 44÷ 120=0.3666・・・
n=6のとき、 265÷ 720=0.368・・・
n=7のとき、 1854÷ 5040=0.0.367・・・
「先生!この値、0.36・・・となって、ある一定な値になるの?」
「いい疑問で、いい質問だなぁー」「そうだよ。nをいくら大きくとっても、この確率は 一定な値0.36787944・・・に近づくだけです。この発見はオイラーが超越数
e=2.71828・・・を考えて、その逆数1/eの値なんです。この関連については、後日、無限級数のマクロニー展開を利用すると、分かるようになるから、それまで、待ってください。」「また、また、話を最初の席替えに戻すと、少なくとも1人が前と同じ席になる確率は余事象の考え方から、1−1/e=0.6321・・・より、約63%の確率で頻繁に起こる事なのです。わかったぁー。こらから、あまり言わないで、次回まで我慢しょう。」
*話は余談になりますが。「小さい頃、例えば、クリスマス会のとき、1人1個づつプレゼントを持って集まってから交換したことき、自分のプレゼントをまたもらった経験はないかね。この確率も同じで、全員が自分と違ったプレゼントをもらうのは37%なんだから。」「日常いくらでも、このような出来事があるからね。他にも考えてみてください。」 「先生!そう言えば、明日から定期テストなんですが、ある先生が、5つの空欄のある文章で、5つの選択肢の中から異なる選択肢を選んで答える問題を出すと言われましたが、僕、自信がないので、直感で答えを書くしかないんです。次の2つの方法で答えるなら、
どちらが得ですか。先生!考えてください。
Aの方法:5つの空欄に全て同じ選択肢を書く。
Bの方法:5つの空欄に全て異なる選択肢を書く。」
「よぉーし、もう時間もないので、これを宿題にしょう。みんなはどちらの考え方で書くと得か考えて来い。ヒントは数学Tの習った期待値の考えでいこう。」
「これで、本日の授業は終わろう。疲れた。」生徒も異口同音に「疲れたぁ。」



       皆さん!!  どしどし解答を送ってください。
               自宅:mizuryu@aqua.ocn.ne.jp


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