<美しい数学の話>

第2話 「ハミルトンの4元数」

NO1.水の流れより (平成11年7月7日)

 皆さん、ラグランジェの恒等式をご存じですか。この証明方法はいろいろと知られてい

ます。

 定理1:「2個の自然数m、nがともに2個の平方数の和として書けるとすると,積mnも

また2個の平方数の和として書ける。」

(a^2+b^2)(c^2+d^2)=(ac−bd)^2+(ad+bc)^2

この定理は、18世紀にラグランジェにとって4個の平方数の積の場合へと拡張されました。

 定理2:「2個の自然数m、nがともに4個の平方数の和として書けるとすると,積mn

もまた4個の平方数の和として書ける。」

 彼の目標は、複素数の一般化としての4元数の導入によって、定理1のアイデアをまねて

定理2を証明することにあった。

 4元数は、数学的な言葉で3次元空間での回転を記述する試みの中から、

19世紀にハミルトンによって発明された。

 ハミルトンは、複素数x+yiが、次のようにして、平面上の回転を記述するのに利用で

きることを知っていた。ただし、ハミルトン自身は複素数x+yiをあくまでも

順序対(x,y)としてとらえていた。今、複素平面上の点Pが複素数z=x+yiで表さ

れるとする。このPを原点O(0,0)のまわりにθラジアン回転させた点P’を表す複素

数は z’=e^iθ×z となる。ここで、e^iθ=cosθ+isinθとする。

 3個の実数の順序3組として表される数を導入して、空間の回転をとらえなおそうという

ハミルトンのはじめのアイデアは失敗に終わった。しかし、15年にわたる闘いをへて、

ハミルトンは、4個の実数の順序4組を考えれば、3次元空間の回転を巧妙な方法で表す

ことができることを発見した。ハミルトンはこの4組を4元数(quaterntion)

と呼んだ。彼は、4組どうしの和と積を次のように定義したのである。

 2個の4元数q1=(x1,y1,z1,w1)、q2=(x2,y2,z2,w2)

の和は成分ごとの和をとって定める。つまり、

 q1+q2=(x1+x2,y1+y2,z1+z2,w1+w2) とする。

4組(1,0,0,0),(0,1,0,0),(0,0,1,0),(0,0,0,1)

を順に、1,i,j,k と言う記号で表し、

4元数q=(x、y、z、w)は(形式的に)x+yi+zj+wk と見なそう。

このとき、2個の4元数q1=x1+y1i+z1j+w1k と

q2=x2+y2i+z2j+w2kの和は

q1+q2=(x1+x2)+(y1+y2)i+(z1+z2)j+(w1+w2)k

と書ける。また、積q1q2は(形式的に)分配法則を適用して、

q1q2=x1x2+y1ix2+z1jx2+w1kx2+x1y2j+y1iy2i+

 z1jy2i+w1ky2i+x1z2j+y1iz2j+z1jz2j+w1kz2j

 +x1w2k+y1iw2k+z1jw2k+w1kw2k   

とし、i,j,kと実数の積は順序を逆にして積をとっても変化しない(つまり可換となる)

が、i^2=j^2=k^2=−1,

  ij=−ji=k,  jk=−kj=i,  ki=−ik=j

と定義すると、

q1q2=(x1x2−y1y2−z1z2−w1w2)

        +(x1y2+y1x2+z1w2−w1z2)i

        +(x1z2−y1w2+z1x2+w1y2)j

        +(x1w2+y1z2−z1y2+w1x2)k

となる。ハミルトンの定義によると、4元数の積は非可換である。

ij≠ji ,jk≠kj ,  ki≠ik  なので、一般にq1q2がq2q1に一

致するとは限らない。こうした非可換な代数的演算の創造は数学における革命的な一歩であ

った。

x+yi+0j+0kの形の4元数は自然数に複素数x+yiと同一視できる。

 したがって、4元数は複素数を、その性質の一部を保存して、一般化したものと考えて良

い。例えば、絶対値の性質は保存されており、これを利用すると、定理2が証明できる。

4元数 q=x+yi+zj+wk の絶対値 

┃q┃=√(x^2+y^2+z^2+w^2)   によって定義すればよい。

ここで、問題です。

問題(1)絶対値の乗法的性質:4元数q1,q2の積の絶対値は絶対値の積に等しいこと

     を示してください。 ┃q1q2┃=┃q1┃┃q2┃

問題(2)定理2を証明してください。

 

発展:定理2はさらにN個の平方数の和の場合に一般化できるだろうか?つまり、

「N個の平方数の和s1,s2の積s1s2が、常にn個の和となる」ような正整数Nは、

1,2,4以外に存在するだろうか?

 皆さんも、考えてください。この結果は19世紀末のフルビッツを待つことになります。

また、19世紀末にケーリーによって8個の平方数の和に関する恒等式が発見されています。

<参考文献1:「めざせ、数学オリンピック:山下純一訳」(現代数学社)>

<参考文献2:「新数学事典」(大阪書籍)> 

 

NO2.Junさんより(平成11年7月12日)

ハミルトンの4元数について

問題1

(x−y−z−w

 

+(x+y+z−w)i

 

+(x−y+z+w)j

 

+(x+y−z+w)k

より、

|q|

=(x−y−z−w

 

 +(x+y+z−w

 

 +(x−y+z+w

 

 +(x+y−z+w

 

=(x+(y+(z+(w

 

 +(x+(y+(z+(w

 

 +(x+(y+(z+(w

 

 +(x+(y+(z+(w

 

=(x+y+z+w) (x+y+z+w

 

=|q||q|

従って、|q|=|q||q|

問題2(定理2の証明)

m=x+y+z+w
n=x+y+z+w とすると、

mn

=(x+y+z+w) (x+y+z+w

 

=(x−y−z−w

 

 +(x+y+z−w

 

 +(x−y+z+w

 

 +(x+y−z+w

 

<コメント:水の流れ> これがラグランジェの4元数の等式です。

残りは、ケーリーによって8個の平方数の和に関する恒等式が発見されています。


    自宅:mizuryu@aqua.ocn.ne.jp

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