平成13年11月24日

<美しい数学の話>

第41話 「学力低下に対する対策」

(アメリカの話)

 アメリカでは、数年来「数学戦争」(Math War)と言われる論争が新聞紙上をにぎわせている。その歴史は古く、1960年代の数学教育の現代化から続く革新派対保守派の争いである。現代化というのは、集合、関数、確率など新しい内容を小学校から導入した革新的なカリキュラムで、我が国でも70年代に一時採用されたが、80年代から現在の学習内容に改訂された。

 アメリカには、我が国のような全国一律の学習指導要領はなく、各教科の研究団体が独自に作成した基準を基に、各州で教科書採択基準を決めている。この教科書採択をめぐる小、中、高校の先生と著名な数学者の間で、基礎学力の定着の仕方や、そのための取り組みをめぐって対立が起こった。

 前者は、数学的センスを養成するため、なぜそのような計算をするかを生徒に理解させようと主張する。これに対して数学者は、国際的な調査でアメリカの成績が良くないには、学力低下をきすような内容や指導方法に問題がある。もっと知識、理解を重視したカリキュラムで、基礎的な計算を身につけさせるため、反復練習を重視すべきだと反論する。

 何やら、我が国のゆとり教育推進派と基礎学力擁護派の対立の構図に似ている。また、アメリカ連邦教育省は、21世紀に向けた数学、理科教育の指導に関する提言として、「手遅れになる前に」と題した報告書を昨年秋に公表した。

 これは、アメリカの数学、理科教育の質を向上させるための具体的提言で、角界を代表する25人の委員によってまとめられた。手遅れになる前に、今すぐ取り組まなければならない具体策として、現実的な3つの目標を設定し、即実行することを勧告した。第一の目標は、教師に定期的な研修を義務付ける。そのための予算措置が取られ、早速今年から実行されている。

 第二は、質の高い教員養成と数学、理科の教員確保である。アメリカでは今後十年間、ベビーブーム時代に採用した教員の大量退職が予想される。そのため、大学の教員養成の質を高め、優秀な人材を確保するプログラムを作り、手遅れになる前に対処する必要がある。

 第三は、数学、理科の教員がより働きやすくなるための待遇改善だ。他の企業と比べ、教員の給与は安い。
それを達成するため、初年度だけで約六千億円の予算を計上する必要があるという。学力向上のため、教員の質を向上させようとするアメリカの意気込みを読みとれる。(東京理科大学教授 沢田利夫)

以上の文面は、11月9日岐阜新聞の「子供の学力が危ない」という記事から全引用しました。

 さて、日本は、平成14年度から完全学校5日制が始まり、ますます授業時間が減らされる。各学校は、「大学受験対策のためには授業時間を減らされない」という事情から、「ゆとり」を目指した指導要領と対立した形になっている。そこで、各学校では、授業時間確保を週30時間から、一日7時間を行う日を週一日から、何と5日まで考えているところもある。日本の文部科学省は一体、世界各国の自然科学教育に対する熱い事情を十分把握しているのか、全く疑問に思ってしまう。21世紀の中核を担う子供の学力を小学校から見直さないと、心配でならない。
 子供に自然界のある疑問などに対して、ゆっくりと考えさせ、解決できる能力を養うことができるだけの授業時間が欲しい。

 

<自宅>  mizuryu@aqua.ocn.ne.jp

 

 

 

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