平成21年2月8日

[流れ星]

     第220回数学的な応募問題

      <解答募集期間:2月8日〜3月1日

[行列Aのn乗]

皆さん、入試問題に行列Aのn乗を求める問題があります。まとめてみました。

<水の流れ:「uchinyan」さんから指摘があり、問題4でEを2次の正方行列から2次の単位行列に訂正します。ここにお詫び申し上げます。>「28日午後5時記」

NO1「uchinyan  2/08 1454分受信 更新3/1

第220回数学的な応募問題
[行列Aのn乗]

テキストでは行列をうまく表現できず,また,Web では半角スペースが続くと文字がずれてしまうので,
見づらいですが,行列などを,
A = (a b)
@@@ (c d)
などと書くことにします。(そうしてもうまく表示されるかなぁ...)
また,E を単位行列,O を零行列,とします。

問題1:
A = (4 -3)
@@@ (2 -1)
x^n
x^2 - 3x + 2 で割った余りは1次式なので ax + b とし,商を q(x) とすると,
x^n = q(x) * (x^2 - 3x + 2) + ax + b = q(x) * (x - 1)(x - 2) + ax + b
x = 1
として,a + b = 1x = 2 として,2a + b = 2^n,なので,a = 2^n - 1, b = 2 - 2^n となり,
x^n = q(x) * (x^2 - 3x + 2) + (2^n - 1)x + (2 - 2^n)
ここで,x -> A とすると,x^k -> A^k , 定数項に E を補えば,そのまま行列の式になり,
A^n = q(A) * (A^2 - 3A + 2E) + (2^n - 1)A + (2 - 2^n)E
ここで,
A^2 - 3A + 2E
= (10 -9) - (12 -9) + (2 0)
@ ( 6 -5) - ( 6 -3) + (0 2)
= (0 0)
@ (0 0)
= O
なので,
A^n = (2^n - 1)A + (2 - 2^n)E
A^n = (4 * (2^n - 1) + (2 - 2^n) (-3) * (2^n - 1) + 0)
@@@@@ (2 * (2^n - 1) + 0  (-1) * (2^n - 1) + (2 - 2^n))
= (3 * 2^n - 2  3 - 3 * 2^n)
@ (2^(n+1) - 2  3 - 2^(n+1))

 v vc
問題2:
A = ( 1 2)
@@@ (-1 4)
(1)
AX = kX
(A - kE)X = O
ここで X not= O となるには,A - kE の行列式が 0|A - kE| = 0,でなければなりません。
|A - kE| = | 1-k 2| = (1 - k)(4 - k) - (2)(-1) = k^2 - 5k + 6 = 0
@@@@@@@@@@ |-1 4-k|
k = 2, 3
そこで,α = 2,β = 3 です。
(2)
α = 2 に対しては (2),β = 3 に対しては (1) なので,
@@@@@@@@@@@@@@@@@ (1)
@@@@@@@@@@@@@@@@@ (1)
P = (2 1)
@@@ (1 1)
です。そこで,
P^(-1) * A * P = (1 -1)( 1 2)(2 1) = (1 -1)(4 3) = (2 0)
@@@@@@@@@@@@@@@@ (-1 2)(-1 4)(1 1) @ (-1 2)(2 3) @ (0 3)
これより,
(P^(-1) * A * P)^n = (2^n 0)
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ (0 3^n)
一方で,
(P^(-1) * A * P)^n
= (P^(-1) * A * P)^(n-2) * (P^(-1) * A * P) * (P^(-1) * A * P)
= (P^(-1) * A * P)^(n-2) * (P^(-1) * A^2 * P)
= ...
= P^(-1) * A^n * P
なので,
P^(-1) * A^n * P = (2^n 0)
@@@@@@@@@@@@@@@@@@ (0 3^n)
A^n = P * (2^n 0) * P^(-1) = (2 1)(2^n 0)(1 -1)
@@@@@@@@@ (0 3^n) @@@@@@@@@@ (1 1)(0 3^n)(-1 2)
= (2 1)( 2^n -2^n )
@ (1 1)(-3^n 2*3^n)
= (2^(n+1)-3^n 2*3^n-2^(n+1))
@ ( 2^n-3^n 2*3^n-2^n )

問題3:
A = ( 1 2)
@@@ (-1 4)
この行列は,問題2:と同じです。
(1)
AX = kX
A^2 * X = A(AX) = A(kX) = k(AX) = k * kX = k^2 * X
A^3 * X = A(A^2 * X) = A(k^2 * X) = k^2 * (AX) = k^2 * kX = k^3 * X
...
A^n * X = A(A^(n-1) * X) = A(k^(k-1) * X) = k^(n-1) * (AX) = k^(n-1) * kX = k^n * X
(2)
問題2:の(1)と同じです。
そこで,α = 2,β = 3 です。
(3)
α = 2 に対しては (2),β = 3 に対しては (1) なので,
@@@@@@@@@@@@@@@@@ (1)
@@@@@@@@@@@@@@@@@ (1)
A^n * (2) = 2^n * (2)
@@@@@ (1) @@@@@@@ (1)
A^n * (1) = 3^n * (1)
@@@@@ (1) @@@@@@@ (1)
です。ここで,
A^n = (x y)
とおくと,
@@@@@ (z u)
2x + y = 2^(n+1)
2z + u = 2^n
x + y = 3^n
z + u = 3^n
これを解いて,
x = 2^(n+1) - 3^n
y = 2 * 3^n - 2^(n+1)
z = 2^n - 3^n
u = 2 * 3^n - 2^n
つまり,
A^n = (2^(n+1)-3^n 2*3^n-2^(n+1))
@@@@@ ( 2^n-3^n 2*3^n-2^n )
当然ですが,これは,問題2:の結果と一致します。

問題4:
A = ( 2 1)
@@@ (-2 5)
(1)
AX = kX
(A - kE)X = O
ここで X not= O となるには,A - kE の行列式が 0|A - kE| = 0,でなければなりません。
|A - kE| = | 2-k 1| = (2 - k)(5 - k) - (1)(-2) = k^2 - 7k + 12 = 0
@@@@@@@@@@ |-2 5-k|
k = 3, 4
そこで,α = 3,β = 4 です。
(2)
A = 3P + 4Q
P + Q = E
より,
P = 4E - A
Q = A - 3E
ここで,問題文には「E は2次の正方行列」とありますが「2次の単位行列」の誤りでしょう。
そう思って解きます。すると,
P = (2 -1)
@@@ (2 -1)
Q = (-1 1)
@@@ (-2 2)
(3)
P^2 = (2*2+(-1)*2 2*(-1)+(-1)*(-1)) = (2 -1) = P
@@@@@ (2*2+(-1)*2 2*(-1)+(-1)*(-1)) @ (2 -1)
Q^2 = ((-1)*(-1)+1*(-2) (-1)*1+1*2) = (-1 1) = Q
@@@@@ ((-2)*(-1)+2*(-2) (-2)*1+2*2) @ (-2 2)
PQ = (2*(-1)+(-1)*(-2) 2*1+(-1)*2) = (0 0) = O
@@@@ (2*(-1)+(-1)*(-2) 2*1+(-1)*2) @ (0 0)
QP = ((-1)*2+1*2 (-1)*(-1)+1*(-1)) = (0 0) = O = PQ
@@@@ ((-2)*2+2*2 (-2)*(-1)+2*(-1)) @ (0 0)
(4)
PQ = QP
より,A^n = (3P + 4Q)^n の計算では積の交換則がいえて,通常の二項定理が使え,
A^n = (3P + 4Q)^n
=
[k=0,n]{nCk * (3P)^k * (4Q)^(n-k)}
PQ = QP = O
より,
= 3^n * P^n + 4^n * Q^n
P^2 = P, Q^2 = Q
より,
= 3^n * P + 4^n * Q
= ( 2*3^n-4^n 4^n-3^n)
@ (2*3^n-2*4^n 2*4^n-3^n)
= ( 2*3^n-2^(2n) 2^(2n)-3^n)
@ (2*3^n-2^(2n+1) 2^(2n+1)-3^n)

(
感想)
A^n
の求め方のいい復習になりました。
なお,これらは大学で線形代数を学べば,
・問題1:は,ケーリー・ハミルトンの定理の応用。
・問題2:は,行列の対角化の応用。
・問題3:は,行列の対角化の幾何学的な解釈の応用。
・問題4:は,行列のスペクトル分解の応用。
と分かるわけですが,それらは,線形代数の教科書に譲っておきましょう。

NO2「新俳人澄朝」2/10 1513分受信 更新3/1

<コメント:今回の問題は、入試問題よりの出題ということで、受験生の気持ちになって解いてみました。固有値・対角化・ケーリーハミルトンの定理など妙に懐かしかったです。ただ、どの問題も誘導がきつくて解答者の自由な発想は入り込む余地が無く、「解いた!」といった実感ではなく「解かされた・・・」でした。>

NO3「kashiwagi 2/16 2222分受信 更新3/1

<コメント:今回の問題には驚かされました。小職が高校生の頃は行列など 無く、大学1年の教養で初めてお目にかかり、色々な問題を解かされたことを思い出し たからです。 しかも、この様に色々な解き方で・・・・、やはり時代は着実に進歩しているのですね。

問題1:

問題2:

問題3

問題4

 

NO4「kasama    2/27 1334分受信 更新3/1

<コメント:今回は固有値に関する問題ですね。学生時代にやった線形代数を思い出しながら、取り組みました。できたと思いますので>

問題1

xnx2-3x+2で割ったときの商をQ(x)とすると、適当な定数a,bを用いて、

 xn=(x2-3x+2)Q(x)+ax+b

と表すことができます。x2-3x+2=0の解は12なので、それぞれ上式に代入して、

 a+b=1,2a+b=2n ⇒ a=2n-1,b=2-2n

よって、xnは、

 xn=(x2-3x+2)Q(x)+(2n-1)x+2-2n

と表すことができます。行列Aにも同等の演算は成り立ちますから、適当な行列Bを用いて、

 An=(A2-3A+2E)B+(2n-1)A+(2-2n)E

と表すことができます。ここで、行列ACayley-Hamiltonの定理を適用すると、

 A2-3A+2E=0

ですから、Anは、

 An=(2n-1)A+(2-2n)E

=

32n-2

 

3-32n

2n+1-2

 

3-2n+1

となります。

 

問題2

(1)AX=kXを変形すると、

 AX=kX

1-k

 

2

-1

 

4-k

x

y

=

0

0

ここで、

1-k

 

2

-1

 

4-k

の逆行列が存在すれば、

x

y

=

0

0

となって不都合ですから、

 det

1-k

 

2

-1

 

4-k

=0⇒k=2,3⇒α=2,β=3

(2)y1=1とすると、

 k(α)=2 ⇒

1-2

 

2

-1

 

4-2

x1

y1

=

0

0

x1

y1

=

2

1

 k(β)=3 ⇒

1-3

 

2

-1

 

4-3

x1

y1

=

0

0

x1

y1

=

1

1

よって、

 P=

2

 

1

1

 

1

⇒ P-1AP=

2

 

0

0

 

3

となって、両辺をn乗すると、

 (P-1AP)n=

2

 

0

0

 

3

n

 

P-1APP-1AP・・・P-1AP=

2n

 

0

0

 

3n

 

An=

2n+1-3n

 

-2n+1+23n

2n-3n

 

-2n+23n

となります。

 

問題3

(1)数学的帰納法で証明します。

 n=1の場合、AX=kXなので成り立ちます。

 n=mの場合、AmX=kmXが成り立つと仮定して、両辺の左からAを掛けて、

  Am+1X=AkmX=kmAX=kmkX=km+1X

 となり、n=m+1のときも成り立ちます。

 以上より、すべての自然数について成り立ちます。

(2)問題2(1)より、α=2,β=3です。

(3)問題2(2)より、

 An

2

1

=2n

2

1

,

An

1

1

=3n

1

1

だから、

 An

2

 

1

1

 

1

=

2n+1

 

3n

2n

 

3n

An=

2n+1-3n

 

-2n+1+23n

2n-3n

 

-2n+23n

となります。

 

問題4

(1)Ak=kXを変形すると、

 Ak=kX

2-k

 

1

-2

 

5-k

x

y

=

0

0

となり、問題2(1)と同様にして、

 det

2-k

 

1

-2

 

5-k

=0⇒k=3,4⇒α=3,β=4

です。

(2)条件を満たす行列PQ

 P=

p11

 

p12

p21

 

p22

,Q=

q11

 

q12

q21

 

q22

とすると、A=αP+βQ,P+Q=Eだから、

 

2

 

1

-2

 

5

=3

p11

 

p12

p21

 

p22

+4

q11

 

q12

q21

 

q22

,

p11

 

p12

p21

 

p22

+

q11

 

q12

q21

 

q22

=

1

 

0

0

 

1

です。これを解いて、

 P=

2

 

-1

2

 

-1

,Q=

-1

 

1

-2

 

2

となります。

(3)それぞれ、単純に計算すると、

 P2=

2

 

-1

2

 

-1

2

 

-1

2

 

-1

=

2×2+(-1)×2

 

2×(-1)+(-1)×(-1)

2×2+(-1)×2

 

2×(-1)+(-1)×(-1)

=

2

 

-1

2

 

-1

=P

 Q2=

-1

 

1

-2

 

2

-1

 

1

-2

 

2

=

(-1)×(-1)+1×(-2)

 

(-1)×1+1×2

(-2)×(-1)+2×(-2)

 

(-2)×1+2×2

=

-1

 

1

-2

 

2

=Q

 PQ=

-1

 

1

-2

 

2

2

 

-1

2

 

-1

=

2×(-1)+(-1)×(-2)

 

2×1+(-1)×2

2×(-1)+(-1)×(-2)

 

2×1+(-1)×2

=

0

 

0

0

 

0

=0

 QP=

2

 

-1

2

 

-1

-1

 

1

-2

 

2

=

(-1)×2+1×2

 

(-1)×(-1)+1×(-1)

(-2)×2+2×2

 

(-2)×(-1)+2×(-1)

=

0

 

0

0

 

0

=0

(4)A=αP+βQの両辺をn乗して、(3)の結果を使って変形すると、

 An

=

(αP+βQ)n

 

=

nC0(αP)n(βQ)0nC1(αP)n-1(βQ)1+nC2(αP)n-2(βQ)2+…+nCn-1(αP)1(βQ)n-1+nCn(αP)0(βQ)n

 

=

αnP+βnQ

 

=

3n

2

 

-1

2

 

-1

+4n

-1

 

1

-2

 

2

 

=

23n-22n

 

22n-3n

23n-22n+1

 

22n+1-3n

となります。

 

皆さん、答えがわかったら、一部でも構いませんから、解答とペンネームを添えて、
メールで送ってください。待っています。