平成23年10月23日
[流れ星]
第264回数学的な応募問題解答
<解答募集期間:9月25日〜10月23日
[ライプニッツ・グレゴリー級数]
スコットランドの数学者グレゴリー(1638〜1675)は、1671年33歳のとき、
問題の等式を発見した。ドイツの偉大な天才数学者ライプニッツ(1646〜1716)も、
また、同じ等式を1674年に独力で発見している。今回はその証明です。
NO1「uchinyan」 09/25 15時27分受信
「uchinyan」 09/25 21時21分受信
更新10/23
I(n) =
∫[x=0,π/4]{(tan(x))^n}dx, n >= 0
(1)
I(0) =
∫[x=0,π/4]{(tan(x))^0}dx = ∫[x=0,π/4]{1}dx = [x][x=0,π/4] = π/4
I(1) =
∫[x=0,π/4]{(tan(x))^1}dx = ∫[x=0,π/4]{tan(x)}dx
=
∫[x=0,π/4]{sin(x)/cos(x)}dx = ∫[x=0,π/4]{(-1) * (cos(x))'/cos(x)}dx
= [- log|cos(x)|][x=0,π/4] =
- log(1/√2) = log(2)/2
以下では,1 + (tan(x))^2 =
1/(cos(x))^2,(tan(x))' = 1/(cos(x))^2,を使います。
I(2) =
∫[x=0,π/4]{(tan(x))^2}dx = ∫[x=0,π/4]{1/(cos(x))^2 - 1}dx
= [tan(x) - x][x=0,π/4] = 1
- π/4
I(3) =
∫[x=0,π/4]{(tan(x))^3}dx = ∫[x=0,π/4]{tan(x) * (tan(x))^2}dx
= ∫[x=0,π/4]{tan(x) *
(1/(cos(x))^2 - 1)}dx
= ∫[x=0,π/4]{tan(x) *
(tan(x))'}dx - ∫[x=0,π/4]{tan(x)}dx
= [(tan(x))^2/2][x=0,π/4] -
I(1) = 1/2 - log(2)/2
(2)
I(n+2) =
∫[x=0,π/4]{(tan(x))^(n+2)}dx = ∫[x=0,π/4]{(tan(x))^n * (tan(x))^2}dx
= ∫[x=0,π/4]{(tan(x))^n *
(1/(cos(x))^2 - 1)}dx
= ∫[x=0,π/4]{(tan(x))^n *
(tan(x))'}dx - ∫[x=0,π/4]{(tan(x))^n}dx
=
[(tan(x))^(n+1)/(n+1)][x=0,π/4] - I(n) = 1/(n+1) - I(n)
つまり,
I(n+2) = 1/(n+1) - I(n)
(3)
0 <= x <= π/4 として,f(x) = 4/π * x -
tan(x) とおくと,
f'(x) = 4/π - 1/(cos(x))^2 =
(2cos(x) + √π)(2cos(x) - √π)/(π(cos(x))^2)
そこで,0 < √2 < √3
< √π < √4 = 2 なので,
1 > cosα = √π/2 > √2/2
= cos(π/4),0 < α < π/4,とおけて,
x = 0,f'(0) > 0,f(x) は単調増加,f(0) = 4/π * 0 - tan(0) = 0
0 < x < α,f'(x) > 0,f(x) は単調増加
x = α,f'(α) = 0,f(α) は極大かつ最大
α < x < π/4,f'(x) < 0,f(x) は単調減少
x = π/4,f'(x) < 0,f(x) は単調減少,f(π/4) = 4/π * π/4 - tan(π/4) = 0
そこで,0 <= x <=
π/4 で,
f(x) = 4/π * x - tan(x) >=
f(0) = f(π/4) = 0
0 <= tan(x) <= 4/π * x
0 <= (tan(x))^n <=
(4/π)^n * x^n
がいえます。これより,
0 < I(n) =
∫[x=0,π/4]{(tan(x))^n}dx <= ∫[x=0,π/4]{(4/π)^n * x^n}dx
0 < I(n) <= (4/π)^n *
[x^(n+1)/(n+1)][x=0,π/4] = (4/π)^n * (π/4)^(n+1)/(n+1)
0 < I(n) <= π/4(n+1)
になります。
(4)
(2)より,
I(n+2) = 1/(n+1) - I(n)
n -> 2n-2 と置き換えて,
I(2n) = 1/(2n-1) - I(2n-2)
1/(2n-1) = I(2n) + I(2n-2)
両辺に (-1)^(n-1) を掛けて n = 1 〜 k で足し上げると,
Σ[n=1,k]{(-1)^(n-1)/(2n-1)}
= Σ[n=1,k]{(-1)^(n-1) * (I(2n) + I(2n-2))}
= (I(2) + I(0)) - (I(4) +
I(2) + (I(6) + I(4)) - ... + (-1)^(k-1) * (I(2k) + I(2k-2))
= I(0) + (-1)^(k-1) * I(2k)
そこで,
Σ[n=1,∞]{(-1)^(n-1)/(2n-1)}
= lim[k->∞]{Σ[n=1,k]{(-1)^(n-1)/(2n-1)}}
= lim[k->∞]{I(0) +
(-1)^(k-1) * I(2k)}
= I(0) +
lim[k->∞]{(-1)^(k-1) * I(2k)}
ここで,I(0) = π/4 で,また (3) より,
|lim[k->∞]{(-1)^(k-1) *
I(2k)}| = lim[k->∞]{|(-1)^(k-1) * I(2k)|}
= lim[k->∞]{I(2k)} <=
lim[k->∞]{π/4(2k+1)} = 0
lim[k->∞]{(-1)^k * I(2k)}
= 0
となって,
Σ[n=1,∞]{(-1)^(n-1)/(2n-1)}
= π/4
になります。
(5)
π/4 という答えからの類推で,y = arctan(x) を考え,これのマクローリン展開を考えます。
y = arctan(x)
x = tan(y)
両辺を x で微分して,
1 = 1/(cos(y))^2 * y' = (1 +
(tan(y))^2) * y' = (1 + x^2) * y'
y' = 1/(1 + x^2)
(1 + x^2) * y' = 1
そして,y を x で n 回微分したものを
y^{n} と書くことにすると,
n+1 回微分のライプニッツの公式を使うと,(1 +
x^2)^{3} = 0 なので,
(1 + x^2) * y^{n+2} +
(n+1)C1 * (1 + x^2)' * y^{n+1} + (n+1)C2 * (1 + x^2)'' * y^{n} = 0
(1 + x^2) * y^{n+2} + 2(n+1)
* x * y^{n+1} + (n+1)n * y^{n} = 0
いま求めたいのはマクローリン展開の係数なので
y^{n}(0) で,
y^{0}(0) = y(0) = 0
y^{1}(0) = y'(0) = 1
y^{n+2}(0) = - (n+1)n *
y^{n}(0)
とから,一般に,y^{2n}(0) = 0,y^{2n-1}(0) = (-1)^(n-1) * (2n-2)! になります。
そこで,
y = Σ[n=0,∞]{y^{n}(0)/n! *
x^n}
= Σ[n=0,∞]{y^{2n}(0)/(2n)! *
x^(2n)} + Σ[n=1,∞]{y^{2n-1}(0)/(2n-1)! * x^(2n-1)}
= Σ[n=0,∞]{0/(2n)! * x^(2n)}
+ Σ[n=1,∞]{(-1)^(n-1) * (2n-2)!/(2n-1)! * x^(2n-1)}
= Σ[n=1,∞]{(-1)^(n-1)/(2n-1)
* x^(2n-1)}
つまり,
arctan(x) = y =
Σ[n=1,∞]{(-1)^(n-1)/(2n-1) * x^(2n-1)}
です。この式で,x = 1 とすると,
π/4 = arctan(1) =
Σ[n=1,∞]{(-1)^(n-1)/(2n-1) * 1^(2n-1)}
π/4 =
Σ[n=1,∞]{(-1)^(n-1)/(2n-1)}
つまり,
Σ[n=1,∞]{(-1)^(n-1)/(2n-1)}
= π/4
になります。
(考察)
上記の方法は,実は,うるさいことを言うと,x
= 1 とする辺りは少し微妙な問題があります。
これには大学レベルの知識が必要ですが,それを意識しながら,少し他の形で示しておきます。
まず,|x| < 1 のとき,等比数列の和の公式より,
Σ[n=1,∞]{x^(n-1)} = 1
+ x + x^2 + x^3 + ... = 1/(1 - x)
です。この式で,x -> -x^2 とおくと,
Σ[n=1,∞]{(-1)^(n-1) *
x^(2n-2)} = 1/(1 + x^2)
ここで,0 < c < 1 として,両辺を x で区間 [0,c] に関して積分します。
∫[x=0,c]{Σ[n=1,∞]{(-1)^(n-1)
* x^(2n-2)}}dx = ∫[x=0,c]{1/(1 + x^2)}dx
ここから,大学レベルの知識が必要になります。
左辺の無限級数は収束半径が 1 なので,区間 [0,c] では一様収束で,
Σ と ∫ の順序を交換できます。右辺は (arctan(x))' = 1/(1 + x^2) を使えます。
Σ[n=1,∞]{(-1)^(n-1) *
∫[x=0,c]{x^(2n-2)}dx} = ∫[x=0,c]{(arctan(x))'}dx
Σ[n=1,∞]{(-1)^(n-1) *
c^(2n-1)/(2n-1)} = [arctan(x)][x=0,c]
Σ[n=1,∞]{(-1)^(n-1)/(2n-1)
* c^(2n-1)} = arctan(c)
この式は,先ほどの arctan(x) のマクローリン展開と同じ式です。
左辺の無限級数は c^(2n-1) の係数の符号が変わる交代級数で,
しかも係数の絶対値は単調減少で n
-> ∞ で 0 になるので,c -> 1 とした無限級数,
Σ[n=1,∞]{(-1)^(n-1)/(2n-1)}
も収束します。そこで,級数が収束すれば収束円の縁まで伸ばせるという,アーベルの定理により,
その値は,右辺の arctan(c) を c -> 1 としたものになるので,
Σ[n=1,∞]{(-1)^(n-1)/(2n-1)}
= π/4
になります。
この方法は,どうせ大学数学を使うならば,最初のところを x -> x^2 とおいて,
Σ[n=1,∞]{x^(2n-2)} =
1/(1 - x^2)
x を複素数 z に拡張して,
Σ[n=1,∞]{z^(2n-2)} =
1/(1 - z^2) = 1/2 * (1/(z + 1) - 1/(z - 1))
とし,これを同様にして z で積分し,Log を主値,Log(1) = 0,Log(-1)
≠ 0 に注意して,
Σ[n=1,∞]{c^(2n-1)/(2n-1)}
= 1/2 * (Log(c + 1) - Log(c - 1) -
Log(1) + Log(-1))
Σ[n=1,∞]{c^(2n-1)/(2n-1)}
= 1/2 * (Log((1 + c)/(1 - c))
ここで,同様に,交代級数とアーベルの定理により,c -> i とできて,
Σ[n=1,∞]{i^(2n-1)/(2n-1)}
= 1/2 * (Log((1 + i)/(1 - i))
i *
Σ[n=1,∞]{(-1)^(n-1)/(2n-1)} = 1/2 * Log(i)
i *
Σ[n=1,∞]{(-1)^(n-1)/(2n-1)} = 1/2 * Log(e^(iπ/2)) = iπ/4
Σ[n=1,∞]{(-1)^(n-1)/(2n-1)}
= π/4
としてもいいですね。
(感想)
「ライプニッツ・グレゴリー級数」って何のかな?,と思いましたが,
要するに,πの近似計算に顔を出すライプニッツの式のことだったんですね。
もっとも,この級数の収束性はあまり速くないことが知られているようです。
(5)の別計算法で,ここでは二つ+α,見方によっては一つですが,の方法を示しましたが,
他にどんなのがあるのかな,と思ってWebで調べてみたら,例えば,
・フーリエ級数を用いる方法
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%97%E3%83%8B%E3%83%83%E3%83%84%E3%81%AE%E5%85%AC%E5%BC%8F
・図形的な方法
http://www.bun-eido.co.jp/t_math/sjournal/sj37/sj370103.pdf#search='ライプニッツ・グレゴリー級数'
などがあるようです。
皆さん、答えがわかったら、一部でも構いませんから、解答とペンネームを添えて、
メールで送ってください。待っています。