平成13年1月8日
<美しい数学の話>
第32話 「数秘眺望発見」
21世紀の初めに、未来の偉大な数学者に年頭のご挨拶です。
■始めに、表題に書いた「数秘眺望発見」のことを述べたいと思う。私が大学3年の春休みに行われた特別講義を受講したときである。外部講師であった京都大学の土井公二先生(失礼ながら肩書きは忘れている)が最後の講義に、私たち学生向かって黒板に大きな字でこんな言葉を書かれた。
「震え上がるような数の神秘を知るために、あなたは青春をかけてみないか」
この強烈な印象を持つ言葉を未熟な私には心に刻みたくて、すぐに手帳に書き残した。それで以前から興味を持っていた整数論に益々憧れて、4年のゼミは代数学を専攻することになる。ゼミの専門書はフランス数学者アンドレ・ヴェイユ(1906〜1998)が書いた「basic number theorem」(勿論:Englishで日本語訳当時なかったようです)でした。
ゼミの担当日に長沼英久先生(高知大学名誉教授、元高知大学理学部長 平成26年12月死去)から、「何で、どうして、Why?Why?」の連続した大声で叱咤激励されたことを、今でも心に残っています。このゼミを通して学んだことがあと後大変役だっていますから、感謝しなければなりませんが。
さて、昨今数学的分野(特に整数論)に関する本をよく読むようになって、今教えている高校生に少しでも、
「数学の面白さや学ぶ楽しさ」を知ってもらおうと思うようになってきた。そこで、生徒に呼びかける言葉を考えたのが、表題の言葉なのです。
これは、1つの真理を探究するのに使います。山登りに例えて、低いところでは眺めも悪く、壮大な景色も見えません。ところが、苦労して登山口を探しながら、途中行き止まりなっていても、そこから新しい道を自分で切り開いていきます。最後にとうとう高い山の頂上に人類史上初めて到達したときのあの何ともいえない心地よさは過去の苦労を一瞬にして消してくれて、人には言いようのない充実感・達成感などの感動を与えてくれます。眺望の良さは極めた本人だけしか分かりません。これから、数学的分野(特に、数論)での未解決問題という山登りに、南高生を含めた多くの人達にチャレンジもらいたいのです。きっと、登頂後、数の不思議さに魅了されることでしょう。
■アメリカのクレイ数学研究所が20世紀最後の年5月24日にパリの学会で賞金100万ドル(現在、約一億一千万円前後)をかけた「21世紀の7大難問」を提出した。この懸賞金のついた7つのミレニアム問題は、表題だけ書いてみる。1.P=NP問題、2.ホッジ予想、3.ポアンカレ予想、4.リーマン仮説(予想)、5.ヤンーミルズ理論とmass gap、6.ナヴィエーストークス方程式とsmoothess、7.バーチとスウインナートンーダイアーの予想です。
この発表を聞いて(実際には、昨年6月4日の朝日新聞の天声人語で知る)、学生時代に知ったヒルベルトの23の提言を思い浮かべた。 ちょうど百年前19世紀の終わり、1900年8月8日(水)の午前、パリで開かれた第2回国際数学者会議の招待講演として、ヒルベルト(1862〜1943)が行った「数学の将来の問題について」の中にある23個の(いわゆるヒルベルトの問題)問題がある。勿論、この講演の最後に20世紀中に解いて欲しいと願いを込めて”若者よ、これらの諸問題に挑戦せよ”と言う意味の言葉で結んでいる。むろん賞金なし。しかし、時の数学者たちは果敢に挑み、次々に決着をつけた。 現在、23問中、5問を除いて解決されている。
さて、ここでヒルベルトが提唱した23の問題の中で日本人が解いた問題を言います。ヒルベルトの9番目の問題『一般の相互法則』は、岐阜県出身の高木貞治(1875〜1960)博士の類体論(1920年)と、アルチン(1898〜1962)の一般相互法則(1927年)とによって、ヒルベルトが予想していた以上に鮮やかな形で解決された。
また、ヒルベルトの22番目の問題『保型関数による解析的関係の一意化』元来の形は、リーマン面の一意化問題として、ケーベ(1882〜1945)が解決した(1927年)。多変数の場合は、そのままの形でないが、1969年代数的多様体の特異点の還元定理(広中平祐:1931〜)によって、事実上解決されたとなっている。
上記、二人がこのヒルベルトの23の問題に携わって解決に寄与した日本人となっています。高校生の皆さんにはまだ、分かりづらいで内容ですが、次ぎに書く未解決問題は是非心の中に留めておいてください。 尚、参考文献として、<数学100の問題:数学セミナー編集部)日本評論社>を読んで書きました。
■【1】コラッツ予想(日本では、角谷予想)
「自然数nを取り、これが奇数なら3倍して1を加える。偶数なら2で割る。これを繰り返すと始めにどんなnを選んでも、いつかは1→4→2→1を繰り返す」というのがコラッツ予想です。この予想は1970年に角谷(カクタニ)静夫氏により日本に伝えられたという理由から「角谷予想」と呼ばれている。
例えばnを20とすると、20→10→5→16→8→4→2→1となる。未解決なので、もしかすると反例があるかもしれないが。nが1〜50までぐらい検証してみてください。nが27のときは大変ですよ。
【2】素数を表す式
古代から数学者の興味を最も惹いてきたのが素数です。しかし、数学者の執拗な挑戦にも関わらず、新しい素数を次々に生み出すような式は、未だに発見されていない。フェルマー(1601〜1665)が発表したFn=(22 )n +1はn=5のとき、
F5=(22 )5 +1=232
+1は合成数とオイラー(1707〜1783)が示した。
一方、オイラーが見つけたP=n2+n+41 のnに0から順に整数を代入すると、n=39までは素数になる。
【3】双子素数
2つの奇素数が偶数を挟んで隣り合っている組を双子素数という。例えば、3と5、5と7、11と13、17と19、29と31などである。最大の双子素数は次々に発見されているが、これが無限にあるかは、まだ分かっていない。
【4】より大きな素数への挑戦
素数は無限にある。これは古代ギリシャでも知られていた。それが現在まで、多くの数学者が競って、その時々で知られている素数より、さらに大きな素数を探し続けている。また、大きな素数を計算することは、新しく開発したコンピュータの性能をチェックするのには大変良い方法でもある。最新の最大素数はインターネットのウェブでも公開されている。
【5】完全数
完全数とは、その数の約数を書き出し、自分自身を除いたすべての和が、元の数になるものをいう。例えば、6=(1+2+3)、28=(1+2+4+7+14)などがある。紀元前の時代に3番目の完全数は496、4番目は8128と見つかっている。ところが、5番目の完全数は1456年に発見されている。皆さん、実際に、素因数分解して約数をみつけて、検証してみてください。
現在知られているのは、すべて偶数の完全数であり、偶数の完全数は必ず2n−1(2n−1)であることがオイラーによって証明されている。奇数の完全数があるかないかはいまだに謎のままである。完全数はすべて発見されていない。
【6】任意の自然数はm個のm角数で表される
○ ○ ○ ○
○○ ○○ ○○
○○○ ○○○
○○○○
上の図のように○を並べると、1,3,6,10、15、21、・・・という数列ができる。このように正三角形をなす数を三角数と呼んでいる。勿論、1,4,9,16、25、・・・と四角形をなす数を四角数(平方数)と呼び、1,5,12、22、35、・・・と五角形をなす数を五角数と呼う。このように図形にちなんで、m角数まで存在する。
フェルマーは「任意の自然数はm個のm角数で表される」ことを、アレクサンドリアのディオファントス(算術)の余白に書き残している。
実際に、m=3として、1から50ぐらいまで、3個の三角数で表してみよう。これも完全には証明されていない。
【7】ゴールドバッハの予想
「4以上の任意の偶数は、2個の素数の和として表せる」と、いうのがゴールドバッハ(1690〜1764)の予想だ。
実際、4=2+2,6=3+3、8=3+5、10=5+5、12=5+7、14=7+7、16=5+11、18=5+13、・・・と続く。
この予想はロシアの数学者ゴールドバッハが1742年、オイラー宛の書簡に書いたものである。問題の意味するところが非常に分かり易いため、多くの人々が挑戦したが、未だに解決されていない。
実は、2000年3月に2年間の期限付きですが、イギリストとアメリカの出版社からこの問題にも100万ドルの懸賞金がかかった。ただ、英米国籍者に限るという条件があるが。
【8】立方数の逆数の和は?
古代から多くの数学者を魅了してきた素数。皆さんは、次のような無限調和数列の和(自然数の逆数の和)が無限大になることはよくご存じでしょう。
1/1+1/2+1/3+1/4+1/5+…=∞
オイラーも例外の漏れず、素数には大きな関心を寄せていた。そして、1737年、30歳のオイラーは1つの大きな発見をする。それは、素数の逆数の和をすべて加えると無限大になるというものだ。
1/2+1/3+1/5+1/7+1/11+…=∞
さて、素数自体、無限にある。だから、素数の逆数も無限にある。ただし、無限にあれば和も無限だと考えるのは早計です。平方数の逆数の和は何とオイラーが1735年にπ2/6になることを発見しました。
1/1+1/22+1/32+1/42+…=π2/6
では、立方数の逆数の和は
1/1+1/23+1/33+1/43+…=?
詳しくしたい人はリーマンのゼーター関数ζ(s)を研究しなければなりません。
【9】分割問題
4=1+1+1+1、2+1+1、3+1,2+2、4と5つの方法で和に分けられる。このように分けることを分割と呼び、分け方の数を分割数という。4の分割数は5であり、これをP(4)=5と表す。
さて、そうするとP(n)はどう表されるだろう?この問題は未解決である。皆さんも10までの分割数を調べてください。
【10】リーマン予想
1859年、ドイツの数学者リーマン(1826〜1866)はゼーター関数ζ(s)
ζ(s)=1/1+1/2s+1/3s+1/4s+…
を綿密に調べ、ζ(s)のsが1に等しくなければ、全複素平面で正則な関数となり、しかも、
s=σ+it(σ,tは実数)とおいたとき、
ζ(s)=0の解を零点といい、s=−2、−-4、−6,・・・の負の偶数は自明のゼロと呼ばれていて、0<σ<1の零点は自明でないゼロと呼ばれ、すべてσ=1/2の上にのみあると予想した。
これは12<2<22、22<5<32、32<11<42、42<17<52というように、「2つの平方数の間に必ず素数が潜んでいる」と言い変えることもできます。多くの数学者が現在、この予想が正しいと考えているが、完全な証明はなされていない。これが、アメリカのクレイ数学研究所が出した「21世紀の7大難問」の1つです。【解けたら賞金100万ドル。期限はなし、何も見ても、誰と相談してもいい。
これほどの難問になると、本当に解けたかどうか、その判定もまた難問だ。そこで、解けたと思う者はまず数学の専門誌に発表する。2年たってどこからも文句がなかったら、顧問委員会をつくる。詳しく調べ、間違いなしと判定されて、初めて賞金にたどりつける。】注:【 】は平成12年6月4日朝日新聞の天声人語から引用。
【11】ハーディ予想
ハーディ(1877〜1947)はn2+1の形をした素数は無限にあるか否かすら分かっていない。
2=12+1、5=22+1、17=42+1、37=62+1
・・・
【12】フェルマーの最終定理
1630年、バシェ版のディオファントス『算術』の第2巻、第8問にフェルマーは次のような書き込みをしました。
「これに反して、立方を2つの立方に、2重平方(4乗の数)を2つの2重平方に分けること、そして一般に平方より大きな任意のベキを2つのベキに分けることはできない。このことの真に驚くべき証明を私は得たが、それを書くには、この余白はあまりにも狭すぎる。」とね。
これが、有名な「フェルマーの最終定理」である。現代風に書けば、
「自然数n≧3対して、xn+yn=znを満たす自然数x、y、zは存在しない。」となる。
問題の意味は簡単明瞭。中学生でもたやすく理解できる。こういった問題のわかりやすさ、フェルマーの他の書き込みがほとんど正しかったこと、そして「真に驚くべき証明」という興味をそそるフェルマーの言い回し方から、多くの人々がこの証明に取り組んだ。だが、問題は容易に解けず、360年にわたって、多くの数学愛好者が敗北を喫することになる。1994年10月7日、米プリントン大学の学術誌に投稿した2つの論文、ワイルズ著「モジュラー楕円曲線とフェルマーの最終定理」とテイラー・ワイルズ著「ある種のヘッケ環の理論性質」で1995年2月13日に「証明に誤りない」という認定がおりた。でも、皆さんは別な方法で証明を考えてみては。
■ <参考文献 >
1.素数の不思議:好田順治著(現代数学社)
2.図解雑学フェルマーの最終定理:富永裕久著(ナツメ社)
3.理系への数学2000年10月号(現代数学社)4.数学100の問題:数学セミナー編集部(日本評論社)
<インターネット上での参考サイト>
1.最大素数
http://www.utm.edu/research/primes/largest.html
2.「21世紀の7大難問」「クレイ数学研究所」
http://www.claymath.org/prize_problems/index.htm
3.ゴールドバッハの予想
http://www.apostolosdoxiadis.com/
http://www.mscs.dal.ca/~dilcher/Goldbach/
4.水の流れ(拙者のホームページ)
http://ryugen3.sakura.ne.jp/index.html