平成12年3月11日

<美しい数学の話>

第18話 「第2種スターリング数S(n,k)」NO1

  第46回の応募問題の「無限級数の和」の中にでてくる「第2種スターリング数」について、知っていることを

まとめていきます。

NO1.階乗関数からの発見 (3月11日記入) 

皆さんは、nの階乗はn!=n(n−1)(n−2)・・・3×2×1ということをご存じです。

では、xの階乗関数はx^[k]=x(x−1)(x−2)・・・(x−k+1)と表される関数をいいます。

例えば、x^[1]=x,x^[2]=x(x−1),x^[3]=x(x−1)(x−2),x^[4]=x(x−1)(x−2) (x−3)です。

ここで、問題です。x^2=S(2,1)x^[1]+S(2,2)x^[2] となる係数S(2,1)、S(2,2)を求めてください。

さらに、x^3=S(3,1)x^[1]+S(3,2)x^[2]+S(3,3)x^[3]となる係数S(3,1)、S(3,2)、S(3,3)を求めてください。

 勿論、皆さんは恒等式の性質で、未定係数法を使って、S(2,1)=1,S(2,2)=1,S(3,1)=1,S(3,2)=3、S(3,3)=1

と出します。ここで、他の求め方もあります。それが、連続組立除法という方法です。この方法は、整式Aを1次の整式Bで割った商をP、あまりをQとしたときに、一度に求めてくれる方法です。よく、因数分解するとき、1次因数を発見するのに使います。

 詳しく、下の図を見て下さい。ご覧のように、次々と、「第2種スターリング数」が生まれてきます。

したがって、一般に、x^n=S(n,1)x^[1]+S(n,2)x^[2]+S(n,3)x^[3]+・・・+S(n,n)x^[n]

となる係数S(n,1)、S(n,2)、S(n,3)、・・・、S(n,n)はこの連続組立除法で続けていけば、簡単に求められます。

NO2.分配の方法からの発見 (3月11日記入)

皆さん!第19回の応募問題の中にある問題Eを見て下さい。

「n冊の異なる本を、k個の同じ棚に入れる方法は何通りあるでしょうか。ただし、空の本棚があってはいけないとし、n≧kとする。」この入れ方をS(n,k)とします。

例えば、分かり易くするために、n=4、k=3として考えてみます。本をa,b,c,dとして、縛って本棚に入れることにします。実際には、[{a,b},{c},{d}],[{a},{b,c},{d}],[{a},{b},{c,d}],[{a,c},{b},{d}],[{a,d},{b},{c}],[{b,d},{a},{c}]の6通りあります。S(4,3)=6

 これらの入れ方を、dが単独で棚に入っている入れ方とそうでない入れ方に分類してみます。

『1』dが単独で棚に入っているのは[{a,b},{c},{d}],[{a},{b,c},{d}],[[{a,c},{b},{d}]である。dの棚を除くと、[{a,b},{c}],[{a},{b,c}],[[{a,c},{b}]となる、

これは異なる3冊の本a,b,cを2個の同じ本棚に空の棚がないような入れ方になっている。すなわち、S(3,2)=3

『2』dが単独で棚に入っていないのは[{a},{b},{c,d}]、[{a,d},{b},{c}],[{b,d},{a},{c}]である。これらの入れ方は棚をそのままにしてdのみを除くと、いずれも本a,b,cとなる。

これは異なる3冊の本a,b,cを3個の同じ本棚に空の棚がないような入れ方になっている。すなわち、S(3,3)=1になっている。この逆操作をすることは、3個の棚のそれぞれにdを戻すことに相当するので、3S(3,3)だけの入れ方があったことになる。

 これらをまとめると、S(4,3)=S(3,2)+3S(3,3) が成り立つことがわかる。ここで、次の定理が発見できる。

定理:(1)S(n+1,k)=S(n,k―1)+kS(n,k) ただし、1<k<n

     (2)S(n,1)=S(n,n)=1 ただし、1≦n

 

  <証明>異なる(n+1)冊の本を棚に入れるときに、最初のn冊と最後の1冊に分けて考える。すると、最後の1冊が単独で棚にいれる場合とそうでない場合に場合分けができる。

『1』最後の1冊が単独で棚に入る場合は、最初のn冊は(k―1)個の棚に空き棚を作らないように入っているので、入れ方はS(n,k―1)通りである。

『2』最後の1冊が単独で棚に入らない場合は、最初のn冊だけでk個の棚に空き棚を作らないように入っているはずです。このような場合はS(n,k)通りあるが、最後の1冊をどの棚に入れるかがk通りに選べるので、これらの積kS(n,k)が入れ方の数になる。

 これら2つの場合の数の和S(n,k―1)+kS(n,k)が、異なる(n+1)冊の本をk個の棚に空き棚を作らないように入れる入れ方の数S(n+1,k)に等しくなる。

 次は、当然明らかなことです。 <証明終わり>  

ここで、「第2種スターリング数」S(n,k)を表にします。ただし、1≦k≦n

S(n,k)

  2

 3

 4

 5

 6

 7

 8

 ビル数

  1

 

 

 

 

 

 

 

   1

  2

  1

 

 

 

 

 

 

   2

  3

  3

  1 

 

 

 

 

 

   5

  4

  7

  6

   1

 

 

 

 

  15

  5

 15 

 25

  10

   1

 

 

 

  52 

  6

 31

 90

  65

  15

  1

 

 

 203

  7

 63

301

 350

 140 

 21

 1

 

 877

  8

127

966

1701

1050

266

28

 1

4140

 

皆さん!今度は、第18回の応募問題の中にある問題Bを見て下さい。

「n冊の異なる本を、k個の異なる棚に空の本棚を作らないように入れる方法は何通りあるでしょうか。」

この答がk!S(n,k)だったのです。導いてみましょう。

<証明> 異なるn冊の本を異なるk個の棚に空の棚を作らないように入れる1つの入れ方に対して、そのときの棚同士をk!通りに交換したものすべてが異なるn冊の本を同じk個の棚に空の棚を作らないように入れる1つの入れ方に対応するので、異なるn冊の本を異なるk個の棚に空の棚を作らないように入れる入れ方の数はk!S(n,k)となる。<証明終わり>

 さらに、皆さん!第19回の応募問題の中にある問題Fを見て下さい。

「異なるn冊の本を、k個の同じ棚に入れる方法は何通りあるでしょうか。ただし、空の本棚があってもよい、n≧kとする。」

この答は、S(n,1)+S(n,2)+S(n,3)+・・・+S(n,k) になります。

<証明> 異なるn冊の本を同じk個の棚に空の棚なしに入れる方法がS(n,k)通りである。

異なるn冊の本を同じk個の棚に空の棚が1個の状態で入れる方法が、すなわち、異なるn冊の本を同じ(k―1)個の棚に空の棚なしの状態で入れる方法のことで、S(n,k―1)通りある。

 同様に考えて、異なるn冊の本を同じk個の棚に空きの棚が2個の状態で入れる方法がS(n,k―2)通り、・・・、異なるn冊の本を同じk個の棚に空きの棚が(k−1)個の状態で入れる方法がS(n,1)通りある。

 したがって、これらの総和、S(n,1)+S(n,2)+S(n,3)+・・・+S(n,k)が求める入れ方になります。

ただ、n<kの場合について、述べておくと、本の数より棚の数の方が多いので、

S(n,n+1)=S(n,n+2)=・・・=S(n,k―1)=S(n,k)=0と考えて差し支えない。

 ここで、次のようなことが分かる

 定理:(3)S(n,2)=2^(n-1)−1

    (4)S(n,n−1)=C(n,2)    ただし、C(n,k)は組み合わせの記号とする。

    (5)S(n+1,k)=煤ij=0・・・n)C(n,j)・S(j,k−1)

<証明>(3)S(n,2)は、異なるn冊の本を同じ2個の棚に空の棚を作らないように入れる入れ方です。

最初の1冊をどちらの棚に入れても、棚自体に区別がないので選択の余地がなく、したがって1通りの選び方しかできない。しかし、最初の1冊を入れることにより、2個の棚には区別ができる。

 異なる2個の棚に残りの(n―1)冊の本を入れる入れ方は、1冊ごとに2通りあるので、全部で2^(n-1)通りある。しかし、この中には最初の1冊を入れた方の棚に残りの(n―1)冊をすべてを入れる場合を含んでいる。これは空の棚を作らないという規定に反するので、この1通りを除外すると、2^(n-1)−1 となる。

(4)S(n,n−1)は異なるn冊の本を同じ(n―1)個の棚に空の棚を作らないように入れる入れ方です。

空の棚を作らないためには、(n―1)個の棚の内の1個の棚にだけ2冊の本を入れ、それ以外の棚には1冊の本を入れなければならない。棚どうしには区別がないので、異なるn冊の本から1つの棚に入れる2冊の本を選ぶ選択しかないことになる。これは、異なるn冊の本から2冊を選ぶことになるので、C(n,2)とおりある。

(5)異なる(n+1)冊の本a,a,a ・・・、a,an+1  を同じk個の棚に空の棚を作らないように入れる方法はS(n+1,k)通りある。

 このような入れ方の1つを実際に作成し、その上でan+1の入っている棚とその中にあるすべての本を取り除くと、その残りは、{a,a,a ・・・、a}の部分集合Jを同じ(k−1)個の棚に空の棚を作らないように入れる入れ方になる。Jの要素の数がjの時、そのような入れ方はS(j,k−1)通りある。

 ただし、取り除いた棚に入っていた本の数は1から(n+1)の間の数になるので、Jの要素の数は0からnまでの値をとる可能性がある。

 また、集合Jの要素の数がjのとき、{a,a,a ・・・、a}からJを選ぶ選び方はC(n,j)通りある。

よって、煤ij=0・・・n)C(n,j)・S(j,k−1)がS(n+1,k)と等しくなる。

ただし、S(0,0)=1,S(0,n)=1(n≧1)であることが前提としている。<証明終わり>

NO3.ベル指数の漸化式の発見 (3月11日記入)

第2種スターリング数の和として次の定義式で表されるB(n)をベル指数と言います。

 B(n)=S(n,1)+S(n,2)+S(n,3)+・・・+S(n,n)  (n≧1)、  B(0)=1

ベル指数B(n)は、その定義から異なるn冊の本を(同じいくつかの棚に)空の棚なく入れる入れ方の総数を表す。

定理:(6)B(n+1)=煤ij=0・・・n)C(n,j)・B(j)  (n≧1) 、

<証明> *この漸化式はすでににある「コロキウム室」で発見されています。

k>n+1のとき、S(n+1,k)=0を使います。

B(n+1)=煤ik=1・・・n+1)B(n+1,k)=煤ik=1・・・∞)B(n+1,k)

さらに、定理(5)を用いると、次の関係式が得られる。

B(n+1)=煤ik=1・・・∞)煤ij=0・・・n)C(n,j)・B(j,k−1) 

      =煤ij=0・・・n){C(n,j)煤ik=1・・・∞)B(j,k−1)}

      =C(0,0){S(0,0)+S(0,1)+・・・}

        +煤ij=1・・・n){C(n,j)煤ik=1・・・∞)B(j,k−1)}

      =1(0+0+・・・)+煤ij=1・・・n){C(n,j)煤ik=2・・・j+1)B(j、k−1)}

      =1+煤ij=1・・・n){C(n,j)煤ik=1・・・j)B(j、k)}

      =C(0,0)B(0)+煤ij=1・・・n){C(n,j)・B(j)}

      =煤ij=0・・・n)C(n,j)・B(j)    <証明終わり>

*ちなみに、ベル指数B(n)はこの漸化式に従って、計算すると、1,1,2,5,15,52,203,807,・・・

さらに、このベル指数は にある「コロキウム室」のテーマ別のプレゼント問題で、平成10年5月29日にヴァーさんが発見された「(原点のまわりの)m次のモーメント」なのです。

 次回は、第2種スターリング数S(n,k) の一般項を出す予定です。

<参考文献:「やさしい組み合わせ数学:西岡弘明著(コロナ社)>

 NO4.第2種スターリング数の一般項 (3月12日記入)

皆さん!もう一度、第18回の応募問題の中にある問題Bを見て下さい。

「n冊の異なる本を、k個の異なる棚に空の本棚を作らないように入れる方法は何通りあるでしょうか。」

この答がk!S(n,k)です。ここで、k!S(n,k)=F(n,k)とおきます。

 さて、第18回の応募問題の中にある問題Aを見て下さい。

「n冊の異なる本を、k個の異なる棚に空の本棚を作ってもよい入れる方法は何通りあるでしょうか。」

この答が重複順列で、k通りある。

 そこで、kをF(n,r) (r=0,1,2,・・・k)で表わすことを考えます。

異なるk個の棚に空の棚がない場合、異なるk個の棚に空の棚が1個の場合、異なるk個の棚に空の棚が2個の場合、・・・、

異なるk個の棚に空の棚がk個の場合、これは便宜的に考えておきます。よって、次の式が成り立ちます。

=F(n,k)+C(k,1)・F(n,k−1)+C(k,2)・F(n,k−2)+・・・+C(k,r)・F(n,k−r) +・・・+F(n,0)

 ここで、k=A(k)とおくと、煤ir=0・・・k)C(k,r)・F(n,k−r) となり、

A(0)=F(n,0),A(1)=F(n,1) +F(n,0),A(2)=F(n,2) +C(2,1)F(n,1) +F(n,0)、

A(3)=F(n,3) +C(3,1)F(n,2) +C(3,2)F(n,1)+F(n,0)、・・・・

これを、逆に、F(n,k)について、解いていきます。

F(n,0)=A(0)=0=0 として、F(n,1)=A(1)−F(n,0)=1−0=1,

F(n,2) =A(2)−{C(2,1)F(n,1) +F(n,0)}=A(2)−C(2,1){A(1)−F(n,0)} −A(0)

     =A(2)−C(2,1)A(1) −A(0)

・・・・

F(n,k)=A(k)―C(k,1)A(k―1) + C(k,2)A(k―2) −C(k,3)A(k―3) +・・・+

    (−1)C(k,r)A(k−r) +・・・+(−1) A(0)

    =煤ir=0・・・k)(−1)C(k,r)A(k−r)

    =煤ir=0・・・k)(−1)C(k,r)(k−r)

したがって、k!S(n,k)=F(n,k) にもどしてみると、

S(n,k)=F(n,k)/k!=煤ir=0・・・k)(−1)C(k,r)(k−r)/k!  ・・・(答)

これが、太郎さんが探し求めていた「第2種スターリング数」の一般項でした。

 次回は、この値を、積率母関数(指数型母関数)から求めてみます。

 <自宅>  mizuryu@aqua.ocn.ne.jp

 

 


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